エリアケイパビリティーとは

エリアケイパビリティーとは

「エリアケイパビリティーとは、人々が地域の環境的豊かさを能動的主体的に高め、その環境が有する資源を用いて地域が質的に豊かになる能力のこと。」(総合地球環境研究所2016)

私なりに解釈すると、エリアケイパビリティ(以下、AC)とは、その地域の環境が有する資源を地域の人々が主体となり積極的に利用することにより、地域社会そして環境の質がさらに豊かになる。このような能力のこと。

言い換えれば、その地域の環境は潜在的能力を有しており、今まで低利用あるいは未利用であった資源を人々が有効活用することで、その地域環境が持つ能力が最大限に生かされ、その地域の産業の活性化につながる。また、資源を持続的に利用するにあたり、その資源を有する環境の保全や管理等を積極的に行うことになる。これにより自然環境も豊かになり総じて地域の質が上がる。

 

総合地球環境学研究所は、ACの考え方に沿って地域開発を進めるための8つの条件(要素)と重要なポイント3つを紹介している。

エリアケイパビリティー8つの条件(要素)

出典:総合地球環境学研究所HP

エリアケイパビリティーの8つの条件(要素)
1地域資源の(再)発見と活用
2資源活用のコミュニティー形成
3コミュニティーにおける生活の質の向上の実感
4資源・環境への興味をはぐくむ
5ケアの重要性の認識強化
6ケア活動の進展
7資源状態が向上
8地域を活かす気持ちの芽生え
外部からの評価→1〜7による成功が地域の人々の自信となり、また外部からも評価されることで活動が持続。

上記にある8つの条件は図のように連鎖的であり、地域資源(自然環境からの恵み)を発見または再発見し有効活用することにより、コミュニティー形成や生活の質向上など地域社会が豊かになる。これを実感すると生活を支える資源や環境への興味関心が湧き、資源・環境へのケアを積極的に行うようになる。これにより資源や環境の状態が良くなっていき、また新たな資源の発見と活用に繋がり好循環が起きる。
この循環を現した概念図をACサイクルと呼び、石川氏により明示されている。そして条件8にあるように、外部からの活動の評価が、科学的にも信頼度を良くし、システムの構築や地域の人々の自信にもなる。この条件8は活動が持続的に行われるために非常に重要なものである。

ACのポイント

地域資源の発見・活用
地域の資源を地域のコミュニティーで活用することが重要であり、新たな資源が見つかれば新たなコミュニティーが形成され、長期的な地域活性化につながる。
地域資源と環境をケア
地域資源を持続的に利用していくには、ただその資源だけを管理するのではなく、資源を取り巻く環境についてまで考えていく必要がある。ACの考え方ではそれを「ケア」と呼び、ケアを進めていくためには地域資源や環境への興味や理解が大切で、ケアすることで資源状態が良くなることをコミュニティで実感することが重要。
地域住民・専門家・行政の協働
地域住民のコミュニティーが活動を持続していくためには、専門家や政府と協働していくことが重要であり、外部からの検証や評価が信頼性及び活動の質の向上につながる。また、これがコミュニティーメンバーの自負の高まりにもつながり活動がさらに良くなる。

 

エリアケイパビリティーと生物多様性

人と生物の関わりが生物多様性を守ることにつながる
生物資源の劣化の根底には、20世紀後半頃、石油・石炭、水など直接的に利用できる特定の市場価値のある資源のみが重視され、市場価値のない生物への配慮が少なかったと石川氏は述べている。また、生物資源でも利用しやすい=食味が優れていて調理がしやすいといった特徴を持つものが重要視され、そうでない生物や纏まった量が獲れない生物資源など市場での価値がない生物には、生息環境への配慮など「ケア」が非常に乏しかったという側面があるだろう。このように多くの生物との関係性が薄れていくことにより、自然への思いやり、自然への配慮がなくなったため生物多様性の劣化につながってしまったのだろう。里山の考えからもわかるように、戦前まで人々は木材や山菜、果樹など、身近にある様々な資源を利用し、それを持続的に利用できるように手入れ、いわゆる「ケア」を行ってきた。これにより生物多様性の豊かな環境が維持されていた。これに倣うと、現在社会課題として重要視される生物多様性の保全には人と多様な生物が常日頃から関わりを持つことが非常に重要なのであろう。

ACサイクルが多さは生物や環境へのケアの多さ
地域が持続的に発展していくためには、その地域の資源をいかに多く発見し活用するかであり、地域の豊かさはACサイクルの数で表すことができる(石川2017)。ACサイクルの考えでは、一つの資源に対しそれを利用する一つのコミュニティーできる。つまり、資源の数が多いほどコミュニティー、言い換えれば産業が多くなり地域の活性化につながる。新たな資源が発見できればそれを利用するためにコミュニティーが新たに形成されより地域が豊かになるのだ。利用資源の多い地域、新たな資源利用を積極的に行う地域では、地域のACサイクルが多い=その地域で利用される資源の種類が多いということで資源生物やその生息環境などといった「ケアをする対象」が多くなり、各コミュニティーがそれぞれの利用資源のケアを行うことで多様な生物の保全につながっていく。

保全活動の主体は利用する資源がある環境の利用者であるべき
地域住民が生物多様性を保全していく上で重要になってくるのは主体性だと言える。自らが生物多様性の必要性を理解し、保全策を考えることが持続的な保全活動にはなくてはならない要素だといえよう。ある地域で森をあまり利用しない住民に森林保全活動をするよう頼んでも、その住民にとって森は重要性に欠けるため保全活動は継続されず定着しないだろう。だが、保全活動の主体が森の資源の利用者コミュニティーであれば、資源を持続的に利用していくため森のケアを言わずとも行う。利用者コミュニティーが保全活動を主体的に行うことは、利用者自らが、資源となる生物やその周りの環境、いわば生物多様性や生態系への理解を深めることにもなり、より高度かつ持続的な保全活動が行われる。ACはこのように人と自然の関係性を良好に保ってくれる。ACは今そしてこれからの時代、非常に重要な考え方になってくるだろう。

 

 

参考文献・Webサイト

エリアケイパビリティーとは|東南アジア沿岸域におけるエリアケイパビリティーの向上 総合地球環境学研究所
https://www.chikyu.ac.jp/CAPABILITY/about_ac.html

地域のケイパビリティーと海 海洋政策研究所-笹川平和財団
https://www.spf.org/opri/newsletter/519_2.html

地域と対話するサイエンス エリアケイパビリティー論 石川智士・渡辺一生 2017  勉誠出版


地域と対話するサイエンス エリアケイパビリティー論 [ 石川智士 ]

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