魚付き林とは

魚付き林とは

みなさんは魚付き林をご存知だろうか。あまり聞き馴染みのない言葉かもしれない。名前から想像できる通り「魚がつく林」と考えて良いだろう。今回は魚付き林について勉強していく。

魚付き林とは魚類の生息と繁殖を助けるために維持管理されている森林であり、日本列島には北海道から沖縄まで全国各地に「魚つき保安林」がある。(若菜2005)

このように魚付き林とは、魚を増やすために人間が植樹や禁伐・間伐などの管理を行なっている森林のことである。ではなぜ森林があると魚が増えるのか。沿岸沿いの森林は海に日陰を作り、魚はそこに集まってくる。理由としては直射日光や風波が避けられることで水温が安定し、魚が生息しやすい環境が作られるとされているからだ。また魚の餌となるプランクトンの発生に必要な栄養塩が豊富に供給されるなど生態学的な側面も大きい。このように魚付き林には地先の沿岸に魚を寄せるための効果が多くあるとされている。

魚付き林は森林法では「魚つき保安林」と呼ばれており、魚類の生息と繁殖を助ける目的で指定されている。保安林とは森林法において、水源の涵養、土砂災害の防備など、特定の公共目的の達成のために指定される森林のことをいう。保安林は17種類に種別され、その一つに日本独自の保安林区分である「魚つき保安林」がある。

魚付き林の考え方は江戸時代から存在していた。当初はイワシを食料としてのみならず、肥料や灯油などにも使用していたため、現在以上に重要な資源であった。そのためイワシ漁業育成を目的に禁伐や植樹がなされていたと言われている。その後はサケを回帰させる目的などで同じような活動が増えていったと考えられる。

1988年以降では、漁連や漁業者による組織的な植樹活動が北海道を起点に全国的に行われるようになった。魚つき保安林は、海・湖沼・川岸付近に多いが、近年では物質循環の観点から内陸部でも漁業者による植樹活動が行われている。

 

各地の魚付き林の例

神奈川県真鶴半島の魚付き林
真鶴半島の「お林」は、魚付き林の代表例といえよう。お林は江戸時代に起きた大火災により、木材が大量に必要になったことから、小田原藩に割り当てられた15万本の松(クロマツ)が植林されたことが始まりであった。明治維新以降は皇室御料林となり、一般人の立ち入りは禁じられるようになった。森林の管理は見回り人により行われてきた。明治37年に森林法に基づく魚つき保安林に指定され、昭和22年に皇室御料林から国有林へ、昭和27年には真鶴町に払い下げられ今に至る。

真鶴半島の魚付き林は現在、神奈川県立真鶴半島自然公園に指定され、クロマツの他にも沿岸部の照葉樹林に代表されるクスノキやスダジイの大木やタブノキ、ヤブニッケイなど様々な植物が繁茂し、多様性に富んだ混交林を形成している。また、「真鶴半島の照葉樹林」は神奈川県理指定天然記念物に指定されている。

お林の始まりは、漁業育成が目的ではないが、結果的に豊かな海の生態系が形成され真鶴の漁業を支えている。

新潟県村上市三面川河口の魚付き林
三面川の魚付き林は江戸時代から「鮭を呼ぶ森」として、村上藩は伐採を禁じ森林を大切に保存してきた。三面川は鮭の増殖法である「種川の制」が確立した川でもあり、サケの回帰率を大きく高めたという。

1911年(明治44年)に魚つき保安林として指定され、大木の多いタブの林や雑木林を中心に魚つき保安林に指定されている。現在はさけの森林づくり推進協議会が設立され、新たな「さけの森林」の設定や市民ボランティア等によるブナやホオノキの植樹等が行われている。

 

今回紹介した例以外にも魚付き林は全国各地に存在している。上記の例のように当初の管理目的が漁業育成であるものとそうでないものが存在するが、どちらも生態学的には重要な役割を果たしており、沿岸漁業を大きく支えているのである。

 

水産庁 沿岸域の環境美化・保全
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/tamenteki/kaisetu/engan/

林野庁 保安林種類別の指定目的
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_2_2_3.html

林野庁 令和5年度 管内概要 関東森林管理局 下越森林管理署 村上支署
https://www.rinya.maff.go.jp/kanto/murakami/office/attach/pdf/index-2.pdf

若菜博(2004)論説 近世日本における魚附林と物質循環 水資源環境研究 vol.17 pp53~62
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwei1987/17/0/17_0_53/_pdf/-char/ja

真鶴町 真鶴半島 魚つき保安林「お林」
https://www.town.manazuru.kanagawa.jp/soshiki/sangyoukankou/kanko/1444.html

マルハニチロ salmon museum 日本の「魚つき林」 サケの生活環境を守る森
https://www.maruha-nichiro.co.jp/salmon/environment/02.html

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