里海とは

生物多様性
里海とは

里海という言葉を聞いたことがある人は少ないだろう。というのも里海という概念が提唱されたのはごく最近のことであり、1998年に柳哲雄氏により提唱されたのが最初である。今回は里海について勉強していきたい。

里海とは
里海とは「人手を加えることで、生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」と定義されている。

簡単に言うと、自然の海に人が手を加えることにより生物の数や種類が増えると言うことである。人が自然に手を加えたら生物は減っていくのではないか、と考える人も多いだろう。もちろん人間による過度な干渉は生物にとってマイナスな影響を及ぼすが、手の加え方によってはプラスになるのだ。

里海の例
例えば、有明海や沖縄などで行われる「石干見」という石垣を使った仕掛けは、遠浅の海に石垣を作り潮の満ち引きを使って魚を捕る方法である。この仕掛けを作るために沈められた石垣は、石の隙間に隠れる生物や石に付着する付着生物の生息場となり、生物多様性が高まるのだ。
分かりやすく言うと、何もない砂漠の真ん中にオアシスができたようなものだ。

このように、人間活動が生物の住む場所を提供し、一つの生態系(ビオトープ)を作り出すのである。
以下で紹介する海の環境保全活動も里海の一つと捉えることができる。

 

環境保全活動と里海
近年、海洋プラスチック問題や持続可能な開発目標(SDGs)が話題となり、海洋環境保全の重要性が一般市民の間でも再認識された。
保全活動は、県・地区単位、企業単位など様々な規模で活動がなされている。海の環境保全活動の中には干潟や藻場の再生・保全といった直接的に生物の生息環境を保全する活動から、海岸清掃のように現在から将来に向けてきれいな海を守る活動など様々である。これらの活動は人が海に手を加えているという点から里海活動と捉えることができ生物の多様性を高めるのみならず、地域の活性化の重要な役割を果たしている。
ここでは全国で行われている里海活動を紹介していきたい。
白保の里海
沖縄県石垣島の白保集落では環境保全活動と水産資源の再生のために、「白保魚湧く海保全協議会」が立ち上げられた。この中では漁業者・観光業者・農業者・畜産業者が協働し、海垣や石干見の復元、赤土の流出防止のための月桃の植栽、ヒメジャコの稚貝放流と禁漁区の設定など様々な活動が行われている。また、サンゴ礁観光事業者の自主ルールと観光マナー集をまとめた白保憲章(白保村ゆらてぃく憲章)を制定し、村を上げて自然環境や伝統文化の保護・継承、地域活性化に取り組んでいる。
高知柏島の里海

高知県大月町柏島では、深刻な磯焼けによりホンダワラ等の海藻を産卵床としていたアオリイカが減少、これを受けダイバー・漁業者・林業者・行政等が協働しアオリイカの人工産卵床設置事業を実施した。

林業者が山から切り出した枝で人工産卵床であるシバ(イカシバ)を作り、そのシバを研究者により選定された効果的な場所にダイバーが設置(シバづけ)する。この産卵床には産卵場を求めていたイカがたくさんの卵嚢を産みつけた。この事業は多くのセクターによる連携の成功。また、子供たちの環境教教育の場にもなり、良い里海活動のモデルということができる。

 

今回紹介したような里海活動は全国各地で行われており、活動にはセクター垣根を越え多くの人々が参加している例も多い。このような里海活動は地先の沿岸の生物多様性を高めるだけではなく、地域コミュニティの強化や学習の場の提供といった多面的な機能を有している。地域産業の全体の活性化も期待できるだろう。今回紹介した里海活動の例はほんの一部であり、これ以外にも様々な活動が全国で展開されている。他の事例に関しては、この記事の参考文献である『里海創生論』を参考にしていただきたい。

 

参考文献・Webサイト

・柳哲雄(2010). 里海創生論. 恒星社厚生閣. 160p.

・環境省 里海ネット
https://www.env.go.jp/water/heisa/satoumi/

・白保魚湧く海保全協議会
http://sa-bu.natsupana.com/

・公益財団法人 黒潮生物研究所 シバづけで生物を増やし豊かな海を作れるのか!
https://kuroshio.or.jp/project/

 

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