生物多様性の観点から重要度の高い海域

生物多様性の観点から重要度の高い海域

生物多様性の観点から需要度の高い海域とは?
生物多様性の観点から重要度の高い海域(以下、重要海域)とは、海洋の生物多様性の保全と持続可能な利用を図ることを目的に、環境省が抽出した生物多様性の保全上重要な海域であり、生態学的、生物学的観点から科学的また客観的に明らかにしたものである。

環境省は重要海域を、科学的に重要な場所を示すことが目的で、漁業などの規制に直ちに結びつくものではないと説明し、海洋保護区などの管理策の参考資料とするようにしている。

保全と持続的利用いわば保全と利用の両立を図るために、管理を進めていく上で重要な場所がわかっていた方が、より迅速かつ効率的な対応ができて良いということである。重要海域=保護区ではないため、重要海域だからといって漁業やレジャーが禁止になるわけではない。しかし、それだけ生物多様性が豊かな海域であるため、将来的に保護区となる可能性は大きいと言えるだろう。

国際的な背景と動き
2008年にドイツ・ボンで開催された生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)では、公海上において、生態学的または生物学的に重要な海域(EBSA:Ecologically or Biologically Significant marine Area)を選定することが位置付けられ、その選定基準(EBSAクライテリア)も示された。
※EBSAは、当初は公海(どこの国にも属さない海)での海洋生物多様性保全を推進するためのものであった。

2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では愛知目標が採択。20の個別目標のうちの一つである目標11には、海域の10%が保護地域等により保全されることが決定され、保護区の設定にあたりより一層EBSAの特定が重要となった。また、EBSAを設定するための基準など理解の向上や各地域の事例集積等のため、EBSA地域ワークショップを開くことが決定された。

国内の動き
国際的な動きを受け、国内でも海洋生物多様性の保全が重要視されるようになり、重要海域の抽出と海洋保護区の適切な設定が重要課題となった。

愛知目標が採択後、目標11を達成するため生物多様性国家戦略2012-2020では、沿岸域および海域の10%を適切に保全管理するという指針が示された。同戦略では、科学的知見に基づく海洋保護区の設定と管理の充実を進めることが明記されており、重要海域はこの達成に向けて保護区の検討など施策を講じるための基礎資料として活用が期待されている。

重要海域の抽出とその扱い
重要海域の抽出は、生物多様性の観点から重要度の高い海域抽出検討会により、国際的に推奨されている基準やプロセスを参考にして抽出のための原則や基準を決定し、これに基づき科学的データ解析、専門家の意見収集を経て決定している。
https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/kaiiki/kijun.html
←重要海域の抽出基準:環境省HP参照

重要海域の抽出はEBSAの抽出基準をほぼそのまま採用している。そのため国際的なEBSAの基準を満たしていると考えられるため、環境省は生物多様性条約事務局へ報告し、レポジトリへの登録が検討するとしている。

重要海域へ対する意見
日本自然保護協会は環境省の重要海域の設定方法に指摘。海岸線や珊瑚礁のイノー(サンゴ礁に囲まれた浅瀬)などのような重要な区域線が考慮されていない事から、生態学的に意味のある区域線の設定や区域の抽出を行うことを要求している。

また、検討会の委員の専門分野が生物学や生態学、水産学に偏って地理学、地形学が不在。水産学以外のデータも用いること。現在データが不十分であることや変化する海洋環境に対応するため、新たなデータが出た場合修正・更新を素早く行う。市民活動の推進、各省庁の連携、迅速な海洋保護区設置を要求している。

EBSA特定の新技術の模索
外洋域のEBSAの特定には海鳥など外洋性高次捕食者を利用する方法が注目されている。いわゆるバイオロギングと言われるものであり、分布データを用いることにより生物の生産性や多様性の高い海域を特定するという方法である。これにより外洋調査にかかるコスト減や移動データを用いることにより、保護区の季節的な移動など効果的な保全をするためにも役立つと期待されている。この方法は環境省の沖合域等の重要海域の設定にも役立つだろう。

 

ここでのEBSAと重要海域の違い

EBSA:Ecologically or Biologically Significant marine Area=生態学的または生物学的に重要な海域
生物多様性条約で決められた国際的な海域概念であり、重要度が評価された公海を含む世界中の海域が対象となる。単に重要海域と略される場合もある。

重要海域:生物多様性の観点から重要度の高い海域
国際的な動きを受け、EBSAの特定や国内での保護区の設定などの参考にするために環境省が選定した、日本国内における重要な海域。いわば日本版のEBSAとも言える。

参考文献・Webサイト

環境省HP 生物多様性の観点から重要度の高い海域
https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/index.html

環境省資料 重要海域の活用、重要海域のEBSAとしての扱いについて
https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/ima/conf/06/mat02.pdf

日本自然保護協会 環境省の『重要海域』の抽出に対する意見
https://what-we-do.nacsj.or.jp/2016/05/616/

綿貫・山本他(2018)総説 外洋表層の生態学的・生物学的重要海域特定への海鳥の利用 日本生態学会誌 68:81-99
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/68/2/68_81/_pdf

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