水産資源管理について

生物多様性

現在日本の水産業は危機的状況の真っただ中にある。原因の一つは高齢化と後継不足による漁業人口の減少といった社会的要因、もう一つは水産資源の減少による漁獲量の減少だ。今回は後者について取り上げる。水産資源が減少する理由に関しては、気候変動による水産資源の生息地が変化・減少という問題も挙げられるが気候変動と水産資源の減少の正確な関係はわかっていない。そこで大きく関わっていると思われるのが水産資源管理の問題だ。今回は水産資源管理についての基本的な考え方や手法について取り上げる。

水産資源管理とは

水産資源管理とは、魚、甲殻類、貝などの水産資源を持続的に利用していくために、獲り尽くさないよう漁獲量や漁獲できる魚のサイズなどを制限する管理である。水産資源は更新性資源、いわゆる再生可能資源であるため、石油や鉄などの枯渇生資源とは違い一定の資源を残しておけば永久的に利用することが可能である。

最大持続生産量(MSY)
上記で述べたように、一定数の資源を残しておけば資源は枯渇せず永久的に獲り続けることができる。そこで登場するのが最大持続生産量(MSY:Muximum Sustanable Yield)という理論だ。枯渇せず獲り続けることができる最大の漁獲量を維持できるという考え方である。漁獲により資源が減少すると回復力が増加、回復量が最大の状態でその増加分だけ漁獲すれば最大量の漁獲を続けることが理論上は可能になる。

一定の資源量に達するまでは、銀行の預金と利率の関係に例えることができる。親魚量(元金)が増えると、それに比例し自然増加量(利子)が増える(図1参照)。だが生物の場合、親魚量が増え過密になると自然増加量が減少してしまう。これを密度効果という。そのため、自然増加量だけ漁獲するようにすれば(口座から増えた利子だけを引き出せば)、最大量の漁獲を毎年続けることができる

図1.MSY理論の概念図
出典:長周新聞

しかしながら、水産資源は環境変化等により常に変動する不確実性の高い資源であることや共有地の悲劇など経済的誘因が働き利益を求めるがゆえ乱獲状態に陥る可能性があるなど、多くの要因を考慮すると、これは成立しないという指摘も多くされている。

水産資源管理の手法と制度

日本における基本的な資源管理の手法
日本における資源管理の手法は以下のとおりである。各漁業の特性や資源状況により、これらの使い分けや組み合わせをしながら資源管理を行う。

1.インプットコントロール
漁船の隻数や規模、漁獲日数等を制限することによって漁獲圧力を入り口で制限する投入量規制。
2.テクニカルコントロール
漁船設備や漁具の使用を規制すること等により、若齢魚の保護など特定に管理効果を発揮する技術的規制。
3.アウトプットコントロール
漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)の設定等により漁獲量を制限し、漁獲圧力を出口で制限する産出量制限。

図2.資源管理手法の相関図

図表3-5 資源管理手法の相関図

出典:水産庁HP

漁獲可能量制度(TAC制度)
国連海洋法条約(UNCLOS)の発行により、沿岸国は排他的経済水域(EEZ)設定、そこでの資源利用が認められる。代わりに資源を持続可能に管理するため漁獲可能量(TAC)を定める義務が課せられた。日本では1997年1月からTAC制度の運用が開始された。TACの対象となっている魚種はサンマ、スケトウダラ、マアジ、マイワシ、サバ、マグロ、ズワイガニ、スルメイカである。これらの魚種別に年間の漁獲量の上限が決められ、国や都道府県ごとに割り当てられる。管理主体はこれを上回らないように操業を行う必要がある

TAC制度の種類
1.個別割当量方式(IQ方式)
漁獲可能量を漁業者や団体に割り当て、割当量を超える漁獲を禁止する方法。
2.譲渡性個別割当量方式(ITQ方式)
割当量を他の漁業者等に自由に譲渡できる。管理の仕組みとしてはIQ方式に準ずる。
3.オリンピック方式
個別割当を行わず各漁業者は自由に操業、総漁獲量が上限に達した時点で漁期を打ち切る方法。

自主的管理
日本をはじめアジアの沿岸国では漁業者による自主的管理がなされてきた。必要に応じて、禁漁区・禁漁期の設定、未成魚・親魚の保護のための漁具・漁法の制限、漁獲努力量の制限するなど漁業者自らが資源管理を行う手法である。資源管理型漁業と呼ばれ順応的な管理ができることや漁協や漁業者が自ら違法を監視をすることにより監視や罰則の費用が軽減されることから、その効果が期待されている。

自主的管理の例としては秋田県のハタハタ漁が挙げられる。自主的なTACの設定や産卵場保護のために操業禁止区域の設置などを実施、過去には3年間の全面禁漁をするなど徹底した資源管理が行われている。また、静岡県のサクラエビ漁では水揚げ金額を均等配分するプール制が導入されている。これは最初、操業の効率化のために導入されたものであるが、結果的に競争や乱獲を抑制、また価格を安定化させる効果もあり、今では持続的な漁業の仕組みとして定着している。

海洋保護区
海洋保護区(Marine Protected Area:MPA)は、海の生物多様性や生態系の保全・保護、また持続的な利用を主目的としたいわゆる自然保護区である。海洋保護区には一律に決まった定義はないが、生物多様性の保全などその保護区の目的に合わせ人間活動を制限するものである。海洋保護区は設置された一定の海域にいる資源をまるごと保護できることから、他の管理方法が機能しない場合においても、不確実性の高い水産資源にとって有効な管理方法の一つとされている。

日本における海洋保護区は、生物多様性の保全や水産資源管理を目的とする制度のもとに設定されており、国立公園・普通地域及び海域公園地区(自然公園法)、自然環境保全地域・海中特別地区(自然環境保全法)、保護水面(水産資源保護法)、共同漁業権区域(漁業法)などがある。それぞれの海洋保護区は規制の内容や程度は様々である。また、制度に関わらず漁業者が自主的に設定した禁漁区も海洋保護区の一つということができる。例として、京都のズワイガニの禁漁区や知床のスケトウダラの禁漁区などが挙げられる。

水産エコラベル
水産エコラベルとは、適切な資源管理と環境に配慮した持続可能な漁業によって獲られた水産物の証であり、乱獲や違法漁業で取られた水産物でないことの証明である。最も代表的なものにMSC:Marine Stewardship Council(海のエコラベル)(図3)が挙げられる。MSCは海洋管理協議会の認証制度であり、背景としてはカナダがマダラを乱獲したことにより資源の枯渇し、それに伴い禁漁した結果多くの失業者が出た。これをきっかけにユニリーバがWWFと立ち上げたのが始まりである。また、日本においてもマリン・エコラベル・ジャパン(MEL)認証が大日本水産会により設立され、こちらは科学的根拠を重視しつつも日本の漁業・養殖業の多様性が考慮された認証規格になっている。

日本では近年、ロシア産タラなどMSC認証を受けた水産物をイオングループやセブン&アイ・グループなどでみることができるようになった。しかし決して多いとは言えず、依然として欧米諸国に遅れをとっている。また、日本産の認証水産物は身近なスーパーで並んでいることは非常に少ないように思える。日本の認証制度の例としては、MEL認証では北海道の定置網アキサケや青森県の十三湖のシジミ等が挙げられ、年々認証は増えているようだ。今後も多かれ少なかれSDGs達成に向けこのような認証は増えてくるだろう。

図3:MSC認証マーク(海のエコラベル)MSC「海のエコラベル」
出典:Marine Stewardship Council

 

 

参考文献・Webサイト

水産庁 我が国の資源管理
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r02_h/trend/1/t1_3_2.html

片野・坂口(2019)日本の水産資源管理 慶應義塾大学出版会 283p

松田裕之(2012)海の保全生態学 東京大学出版会 205p

釣田・松田(2013) 日本の海洋保護区制度の特徴と課題 沿岸域学会誌Vol.26 No.3,pp. 93-104
https://www.jaczs.com/03-journal/ronbun/koukai/2013_11_treatise.pdf

公益社団法人 日本水産資源保護協会 マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)認証について
https://www.fish-jfrca.jp/04/ecolabel.html

マリン・エコラベル・ジャパン協議会 認証された事業者・団体一覧
https://www.melj.jp/list

Marine Stewardship Council MSC「海のエコラベル」とは
https://www.msc.org/jp/what-we-are-doing/what-does-the-blue-msc-label-mean-JP

長周新聞 漁業法改定は何をもたらすか 全国沿岸漁民連絡会がフォーラムを開催
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/19373

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