みなさんはトレーサビリティという言葉を聞いた事はあるだろうか。食品製造・加工会社で働いている人は聞いたことがある言葉だと思うが、そうでない人は聞いたことがない人もいるかもしれない。水産物に関して日本ではトレーサビリティの導入が進んでいないのが現状だ。今回は水産物におけるトレーサビリティの現状とトレーサビリティを導入することの重要性について勉強していく。
しかしながら日本の水産物においてはトレーサビリティの導入はほとんど進んでおらず、一部のブランド魚や養殖魚のみである。日本での導入が進まない理由には日本特有の問題が多く存在する。
トレーサビリティの導入が進まない理由
日本でトレーサビリティの導入が進まない理由は以下の問題が挙げられる。
・手間や時間がかかり、人を増やすにも人件費がかかる。
・従事者の年齢層が高いがゆえ、パソコン等による入力が不得意であること。
・小型漁船が多いことや漁港が狭いことから作業スペースが取れない。
・導入したことによる売り上げへの貢献度が未知数。
・初期投資に多くのコストがかかる。
このように、高齢化による技術不足や作業スペースの問題は日本特有の問題と言えるだろう。また、導入による売上への貢献度の問題も日本の大きな問題点と言える。欧米諸国では、MSCなど水産物に対する認証制度の導入が進んでおり、ウォルマートなどの大手量販店やハイアット・リージェンシーのような高級ホテルで持続可能な水産物であるという証明がない水産物は取り扱わない宣言している。消費者の意識も高いことから、認証された水産物が優先的に出回る市場となっている。
日本では近年イオンやセブン&アイグループでMSC認証を受けた水産物が鮮魚コーナーや水産加工食品売り場に並ぶようになったが、欧米に比べると多くないのが現状であり消費者の意識もさほど高くない。MSCが2022年に発表した調査結果では、MSCエコラベルの認知度の世界平均は48%であるのに対し、日本での認知度は15%程度であり漁業大国にも関わらず世界に遅れをとっている。
水産物のトレーサビリティを確保することはなぜ重要なのか、またどのようなことが期待できるのか。ここでは水産物トレーサビリティの重要性について話していきたい。
商品の付加価値向上と地域活性化
水産物の漁獲海域、漁獲日、生産者、漁法など、またその詳細といった情報を消費者が把握できることによって、安心安全な商品を選ぶことができる。また、漁業者が行なっている環境保全の取組みや資源管理の情報が消費者に公開されることにより、サステナブルな商品であることが消費者に伝わる。これらの情報が付加価値となり、商品の地域ブランド化、またそれによる地域活性化も期待できる。
生物多様性の保全と水産資源の持続的利用につながる
水産物におけるトレーサビリティ確保の手段であるMSCやMEL等の水産認証制度は、漁獲の段階で環境への配慮や適切な資源管理がなされている前提となる。そのためMSCなどエコラベルが付いた商品を消費者が選ぶことにより、消費者も環境保全に参加することができる。また、消費者の意識が環境保全に向いていばエコラベルが付いていない商品は購入されなくなり市場に出回らなくなるため、それを避けるために多くの漁業組合や企業がその認証の取得を行う。より多くの事業者が認証を行うことにより、自ずと生物多様性の保全と水産資源の持続的利用が行われる。
IUU漁業の根絶につながる
IUU漁業とは、違法・無報告・無規制の漁業のことであり、密漁や漁獲量の無申告、他国領海内での漁船操業など様々なものが挙げられる。生物多様性や水産資源の減少に繋がり、労働者の人権保護においても脅威おなっている。SDGsにおいてもIUU漁業の根絶が目標14のターゲットの一つにされている。
トレーサビリティを導入することにより、漁獲から流通加工、販売に至るまで追跡が可能となり、その全段階で違法に漁獲された水産物の流通を阻止することができる。MSC認証制度では、認証ラベルの付いている商品はIUU由来でない商品の証明となり、消費者は違法に漁獲された商品でないことを一目で見分けることができる。そして消費者はこの認証商品を選ぶことにより、認証ラベルのない商品がで回らなくなくなるためIUUの根絶につながる。
これらをまとめると、水産認証制度であるMSCやMELなどの認証ラベルが商品に貼られていることにより、消費者は違法でない安全安心な商品かつ環境に配慮された持続可能な商品を一目で見分けることができ、これらの商品を消費者が積極的に選ぶことで認証された商品が優先的に出回るような市場ができる。漁獲認証された水産物でないとスーパーや加工業者、それらに出荷する仲買業者等が生産者から水産物を買い取ってくれなくなるため、漁業者は漁獲情報の記録や環境保全・資源管理を徹底し、漁獲認証を得るようになる。認証を得るために行った活動が付加価値を生み、単価の向上、特産品であれば地域ブランド化、そして地域活性化も期待できる。このような好循環ができることで、人間社会と自然環境の双方が持続可能なものとなり、すなわちそれらの共生の実現に近づけるものとなるだろう。
水産研究・教育機構 水産物のトレーサビリティシステム導入の問題点と効果
https://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/fish_tech/4-1/07.pdf
片野・坂口(2019)日本の水産資源管理 慶應義塾大学出版会 283p
水産庁 水産白書
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/
MSC 海のエコラベルとは
https://www.msc.org/jp/what-we-are-doing/what-does-the-blue-msc-label-mean-JP
MSC プレリリース
WWFジャパン 世界初の水産物トレーサビリティ世界基準GDST1.0の発表
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4283.html
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