マングローブ林の重要性①

マングローブは河口部や沿岸部に生育する代表的な植物である。今回はマングローブ林の生態学的重要性に加え、利用の観点から人間社会においての重要性を紹介する。

マングローブとは
マングローブは、熱帯・亜熱帯地域の海岸線や河口部に生育する植物群の総称であり、世界には100種ほどの樹種が存在すると言われている。インド洋から太平洋に分布するグループとアフリカ大陸からカリブ海、南米に分布するグループの大きく二つに分かれており、北限は日本の九州付近にある。鹿児島市喜入にある特別天然記念物のメヒルギ群落の北限地はその代表例だろう。

マングローブ林の特徴
マングローブ林の基本的な構造としては、海に面する周辺部は単一種のみで構成されることが多く、森林の中心部に近づくほどその種数は増える。このような構造になる要因として、周辺部は種子が海流で流れてくるものや厳しい環境条件に適応できる種のみに限られてくるからと考えられ、それに守られた森林内部は環境が安定し多くの種類が生育する。熱帯地域の原生的なマングローブ林では樹高40m、直径2mを超える巨木も見られる。

マングローブ生態系とその機能

マングローブ生態系
マングローブ林は、海の命のゆりかごとも呼ばれ、多種多様な生物の生息場・繁殖場となっている。マングローブ林は一次生産力を持つことに加え、河川からの栄養塩の供給、海からのプランクトンの供給、そしてそれが滞留することにより多くの魚類や甲殻類、貝類などが集まる。また、マングローブの幹や根は生き物にとって格好の隠れ家となり生き物が生息するのに非常に適した環境になっている。

マングローブ林は干潮時は干潟となり、ミナミコメツキガニやハクセンシオマネキなどのカニの仲間、キバウミニナ、ミナミトビハゼ等の多種多様な生き物が観察できる。もちろんそれらを捕食するサギやシギなども姿を現す。西表島のマングローブ林の植生は、一般にマングローブを象徴するヒルギ科のオヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギや、呼吸根を地表に垂直に伸ばすヒルギダマシやハマザクロが見られ、ヤシ科のマングローブであるニッパヤシも見られる。また、淡水湿地域の境界付近にはサキシマスオウが見られる。

炭素蓄積機能
森林には大気中の二酸化炭素を植物体や土壌中に固定する機能があり、物質循環において非常に重要な役割を担っている。マングローブ林は沿岸・河口域においてその役割を果たしている。マングローブ林は他の森林植生と比べても多くの炭素を地中に蓄積することがわかっており、生態学的にも非常に重要な立ち位置と言える。また、マングローブ林はブルーカーボン生態系と呼ばれ、海洋生態系の中でも藻場や干潟に比べ非常に多くの炭素を固定する。このようにマングローブ林は陸と海の境にあるだけに陸海双方の物質循環の観点から非常に重要な生態系と言える。

マングローブと人間社会

マングローブ林は、熱帯・亜熱帯地域の沿岸河口域で生活する人々にとって非常に重要な存在である。マングローブ林が作り出す豊かな生態系は人々の生活を支えた。

マングローブの利用
マングローブの利用は大きく分けて二つに大別される。一つは森林資源としての利用で樹木自体を利用するものであり、もう一つはマングローブ林が作り出す環境の利用である。前者は、薪・炭といった燃料としての利用や建材としての利用、食料・酒としての利用、家畜の飼料としての利用、他にも薬や染料としての利用など多岐にわたる。後者は漁場としての利用や強風・高波などを防ぐ防潮林としての利用、また、先進的な国ではレジャー・教育・研究等の利用がある。

森林資源(樹木)の利用
東南アジアやアフリカ・中南米の沿岸地域では、古くからマングローブを燃料として利用しており、地元住民にとっていわば生活必需品であった。現在でもガスや電気が普及していない地域では利用がなされている。また、家の建材や船、桟橋などの材としても古くから利用されており、海水に非常に強いことから、沿岸・河口域で生活する人々にとっては非常に優秀な材質である。燃料や建材にはオヒルギ属やヤエヤマヒルギ属などヒルギ科やヒルギダマシ、ハマザクロが多く利用されてきた。

食糧として利用されるマングローブとしてはニッパヤシがあり、花枝を切りそこから採取できる樹液で砂糖や酒を作る。また、果実自体も食用になり、ほのかに甘く半透明でナタデココのような食感だという。そのほか、ハマザクロの果実、オオハマボウ、ニボンヤシの若芽などが食用とされている。

環境の利用
マングローブ林は、上記で述べたように多種多様な生物の生息場・生育場であり、食糧となる魚や甲殻類などが豊富に採れる。いわゆる水産資源の宝庫であり漁場として非常に優れた環境である。また、海岸侵食防止や台風による被害の軽減など防潮・防風林としての機能も担っており、地元住民にとって非常に重要な役割を果たしている。これらの機能は、日本における魚つき保安林や防風保安林、潮害防備保安林などと類似した機能を持っているといえる。

オーストラリアやニュージーランドでは、他の地域に比べ森林の環境・生態系を保養や教育目的での利用が盛んであり、マングローブ林をカヌーで散策するエコツアーや植林を交えた環境教育などいわゆるエコツーリズムがなされている。一方で燃料や建材など樹木自体の利用はこの地域では少ないようだ。このような違いが見られる理由としては先進国と発展途上国の違いが大きいと考えられる。近年では、環境意識の高まりから先進国やNPO・NGO等の働きかけにより、発展途上国でも観光地でこのような活動が見られるようになった。

②へつづく

 

参考文献・Webサイト

宮城豊彦他.(2003).マングローブ .ーなりたち・人びと・みらいー. 古今書院.日本地理学会 海外地域研究叢書.p193

環境省.ブルーカーボンに関する取り組み
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/blue-carbon-jp.html

国際マングローブ生態系協会.マングローブとは?.マングローブ生態系の重要性
http://mangrove.or.jp/subpage/about_mangroves.html

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