ナラ枯れ被害について

近所の公園の木が急に枯れた。夏場なのに山の一部が茶色くなった。最近そのような光景を目の当たりにした人は多いのではないだろうか。その現象はナラ枯れである可能性が高い。ナラ枯れが起きると枯れ木が倒れるなどし、人身被害や道路を塞いだりするなど人の生活にも被害が出る場合がある。

ナラ枯れとは?

ナラ枯れとは、ナラ類やカシ・シイ類の樹木、いわゆるドングリの木にカシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)という昆虫が侵入することにより、樹木がナラ菌という病原菌に感染し大量枯死する現象である。大量枯死の発生は1980年代末以降に見らるようになった。それ以降は年々被害は増加、2010年度(H22年度)をピークに減少するが、2020年年度(R2年度)には再び増加し高水準で推移している。

全国のナラ枯れ被害量の推移
出典:林野庁HP
都道府県等からの報告による民有林・国有林の被害量の合計。四捨五入により都道府県別の被害量の合計と一致していないという傾向がある。

ナラ枯れの被害は7月から8月にかけて多く発生するが、発生のピークはその年の気温や降水量によって変化すると言われている。高温で降水量が少ない年は発生量が最も多いと言われている。

写真はナラ枯れ被害にあったコナラ。(千葉県君津市)

ナラ枯れ被害を受ける樹種
被害を受ける樹種
出典:愛知県HP

表のようにブナ属を除くブナ科のほとんどの種が被害を受けていた。
特に被害が大きいのがミズナラとコナラでありミズナラに最も多くみられるようだ。また、ナラ枯れの被害は高齢の大木に多くみられる。

斜面に生えたコナラの被害木、大雨などが降ると地滑りの原因にもなる。(千葉県君津市)

ナラ枯れ発生のメカニズム

ではナラ枯れはどのようなメカニズムで発生するのか。またどのように樹木が枯死するまでに至るのか?

カシナガが樹体に侵入することにより、カシナガの孔道が密に形成される。この孔道があることによりナラ枯れの病原菌もこれを伝い広がってゆく。この菌は樹木の細胞から栄養分を吸収するために生きた細胞内に侵入、この菌の侵入に対し防御反応を起こし二次代謝物質を生成する。しかしこの二次代謝物質は油状の物質であり道管が目詰まりを起こしてしまい、水の供給が滞ってしまう。この状態で梅雨が明けの蒸散が活発になる7月を迎えると水不足に陥り枯死するケースが多い。

身近な公園などでも以下の写真のような現象を見たらその木が今青々としていても、近いうちに枯れる可能性がある。写真は木の周りに木くずがあるがこれはカシナガによるものである。これはフラスと呼ばれカシナガが木に侵入し掘り進んでいくときに削れた木クズやカシナガの排泄物が混じったものである。

Furasu
被害木から出たフラス
出典:林野庁HP

また、幹の所々から褐色の樹液が出ていることがある。カブトムシなどが集まる通常の樹液とは異なり甘酸っぱい匂いはあまり感じられず、ドロドロとした感じである。この樹液が幹のあちこちから染み出していると、まるで木が泣いているようにも見えてくる。この樹液はナラ菌に感染した細胞を通ることにより変色したもので、カシナガの穴道の開口部から漏れ出している。

ナラ枯れと里山管理
ナラ枯れの増加は社会的要因いわゆる人間活動の変化が大きく関与していると言われている。その人間活動の変化とは里山の放置である。里山の雑木林は古くから薪の利用や椎茸栽培への利用など多様な用途があり、適度な伐採や草刈り等の管理が行われてきた。
しかし、経済の発展とともに利用は急激に減少、放置された里山は背丈の高い植物が茂るとともにナラ類は大木化そして高齢化していった。
カシナガは直径がある高齢の木を好む。そのため長年放置された大木の多い雑木林はカシナガの格好の繁殖場となるのだ。このようなカシナガが繁殖しやすい環境ができたことにより、ナラ枯れの被害は増加したと考えられる。
そのためナラ枯れの被害を減少させる、また健全な森林環境を持続的に維持するには雑木林の適度な伐採など里山の管理をしていく必要があるのである。
ナラ枯れがれ被害にあったコナラ。各市町村でそれぞれ対策・調査がなされている。(神奈川県大和市)
ナラ枯れに感染してしまった木は伐採し、被覆で覆いNCS剤(薬剤)で処理、または伐倒が困難な場合は幹にドリル等で穴を開けNCS剤を注入しカシナガとナラ菌を死滅させる。伐倒した被害木は林外へ持ち出すと木に残っているカシナガが逃げ出す可能性があるため、その場で処理することが求められる。木が枯死する前にカシナガの侵入が確認された場合は殺菌剤を樹幹に注入する方法もあり、枯死を防ぐ方法もある。
感染木が数本であれば処理は可能であるが、大量枯死が発生した場合は時間と労力が必要となりコストがかかる。こうなると処理は追いつかなくなる。このような状況を未然に最小限にとどめるには里山の適切な管理が重要となってくるだろう。
昔からクヌギやコナラ、シイ類は椎茸栽培、薪や炭などに使用されてきた。雑木林の管理を続けていくには伐採した木材のこれらへの積極的な活用や新たに有効活用する方法を模索することが非常に重要になってくるだろう。
参考文献・Webサイト
林野庁 ナラ枯れ被害
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 ナラ枯れ被害をどう減らすか
愛知県 ナラ枯れ被害と防除

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